チューク・グアム

あるとき「イタン」という言葉に出会いました。イタンとは、ミクロネシアに浮かぶチューク(旧トラック)環礁に伝わる秘密の知識体系であり、また、その知を語り継ぐ伝承者を指しているようです。今考えてもよくわからないけれど、「イタン」という言葉の響きに、ぼくはどうしようもなく惹かれました。すぐに河合利光教授がイタンについて書いた「身体と形象」という本を入手して、むさぼるように読みました。もっともっと、イタンに会いたくなりました。会いたくなったら、会いにいけばいいのです。ぼくはチュークへの旅を決めました。
お世話になった末永さんのおかげで、チュークの最長老にあたる2人から話を聞くことができました。残念ながら彼らはイタンではなく、秘密の知も教えてもらえなかったけれど、チュークの暮らしや伝統からはじまって、おじいちゃん達の人生についても、たくさん、伺うことができました。
長老お2人にさよならを告げたあとは、他の村々を訪ねました。椰子の実のジュースをいただいたり、蒸かしたパンの実をついたり、井戸で洗濯をする女の子達と話をしたりした。ぼくはお礼として、ほんの少しペンやお菓子を手渡しました。すると、必ず返ってくる言葉がありました。「Kinisow(キニッソウ)」でした。
「Kinisow(キニッソウ)」は、チューク語で「ありがとう」という意味です。河合教授がその昔イタンから受けた説明では、「kini」は「信用がある」で、「sowu」は「お返しする」という意味なんだそうです。「互いに向かい合って支え、感謝の気持ちを返し合う」。それが、チュークの人達にとっての「ありがとう」なのでしょう。
「Kinisow」と言葉を交すとき、2人の間には中心ができます。そして、その中心は固く結ばれた2人の心そのものを表します。ちょうど、握手した手が固く結ばれるように、「信用」と「感謝」で、2人のつながりは強くなるのです。
チュークでの朝、水平線から昇る太陽に色づく空を見ていると、地球の鼓動を感じました。広いひろい宇宙の中で、この地球が生まれたこと。そして、ぼくらが毎日を生きていること。あたりまえのようにはじまっていく今日は、とてつもない奇跡なんだと思いました。 ぼくは「Kinisow」と伝えました。










