下北半島

秋田駒ケ岳の紅葉、龍泉洞の澄んだ水、岩手山の雄大なシルエット、竜飛崎を吹きぬける風、十三湖のキラキラ輝く水面、岩木山八合目の空を覆いつくした星々。約2年ぶりで訪れた北東北では多くの感動に出会えました。中でもとびきり強くぼくを捉えたのは、下北半島を包む濃密な空気でした。

旅の2日目。東北道を盛岡から三沢へと抜け、下北半島の付け根にたどり着いたときには、すでに太陽が沈もうとしている時間でした。海に、山に、空に、近づいてくる闇。微かに息苦しさを感じて、思わず車の窓を開けてしまいます。

土地にはそれぞれ役割がある。そんな風にぼくは考えています。たとえば、京都や東京が「日本の都」という役割を背負ってきたように、下北半島は、昔から、東北地方に暮らす人々の心に潜む闇を引き受けてきたのではないでしょうか。ため息や涙や悲しみが溶けこんだ空気を吸い込めば、胸の奥にしまいこんで見ないふりをしていた自身の闇が、ゆっくり、輪郭を帯びてくるのを感じます。

その夜は陸奥湾展望台で車中泊。強い風に揺れる木々のざわめきで、なかなか寝つくことができずにいました。繰り返し頭に浮かぶのは、心に巣食う真っ黒い自身の影。深い、深い、自分という漆黒へ何度も潜っては、じっとうずくまる過去の傷を救い上げました。未来を今へと変えるとき、少しずつでもいい、過去の痛みを溶かせていけたら…… そう願いながら恐さと向き合いました。

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