タスマニア

タスマニアは美しいです。目に見えるもの、目に見えないもの、すべてが澄み切っています。そこには、それぞれが、ただ、それぞれとして存在しています。森はどこまでも森で、風は何ひとつかけず風でしかありません。背伸びもなく、模倣もなく、ただただ、せつないほどのありのままを放っています。

タスマニアのようなありのままを保つ秘訣。それは偶然を楽しむことです。予想外の出来事を、例えそれが痛みをともなうものであっても、しっかりと受け止めることです。いくら願っても、どんなに嘆いても、自分の目の前には、自分の今にとってふさわしいことしかやってきません。自分が直面しているありのままのみが、自分の人生にとって最良の今なのだと、ぼくは感じています。

タスマニアの北の端、She Oak Pointに車を止め夕陽を眺めました。水平線に沈む太陽を見つめながら、ぼくは、その営みに宿る偶然へと心の手を伸ばしました。偶然に潜む乱暴さと厳格さ、そして、それらを受け入れたときに姿をあらわす自由に触れようとしました。

きっと、偶然とは意思なのでしょう。果てしない宇宙に散りばめられたありとあらゆる存在を動かす理(ことわり)であり、つまりはぼくの想いとは関係なくぼくの心臓を動かし、そしてまた、同じようにいつか止める力なのでしょう。「ならばせめて・・・」と、ぼくは願うのです。その意思に、理に、力に、できるかぎりありのまま、寄り添っていたい、と。

太陽が沈み少しずつ闇が濃くなっていきます。星が、ひとつ、またひとつと姿をあらわします。予定では今日中に次の街へ着くはずでした。けれどぼくはその予定を変えます。なぜなら、この場所にたどり着いたのは、まったくの予定外、偶然だったから。理由がわからなくても、理解すらできなくても、偶然がぼくに望むのなら、そのすべてはきっと何の問題もないはずです。星空を見上げ、ぼくはその美しさへと、もう一度手を伸ばしました。小さなろうそくに火を灯すように、そっと、ぼくの今におきました。

おすすめ