槍ヶ岳

北アルプスには「表銀座」と呼ばれる人気縦走コースがあります。安曇野の中房温泉から燕岳へと登り、そこを起点に槍ヶ岳を目指す約20kmのルートは、高度、スリル、眺望と、どれをとっても国内屈指の素晴らしさを誇ります。

ある場所へと来訪を望む人には、その土地や山が呼びかけてくると、ぼくは確信しています。テレビやラジオ、ネットに看板、知人との会話から突然耳に入ってくる情報まで、呼びかけを感じ取ろうと心がけている人へさまざまな方法を使い何度となく気づかせようとします。

地球とは巨大な生命体であり、その一部であるぼくら人間や他の動植物、さらには海や川、空や大地といったすべての存在は、それぞれ意思を持っているのです。目や耳に届いてくるそういったある特定の存在を意識させる情報とは、「今、あなたとつながりたい」というその存在の想いが詰まったメッセージになっています。

自身のちっぽけなエゴではなく、大いなる意思に後押しされて起こす行動には、今の自分を成長させてくれる意義深いプロセスと、これまでの人生を肯定する最高の結末が用意されています。槍ヶ岳を目指す20kmの道のりは、ぼくが知らなかった純度の高い喜怒哀楽を心の奥から引き出してくれました。そして、山頂にはそのすべてを遠くから包み込むような、槍ヶ岳からの、地球からの、澄み切ったやさしさが満みちていました。

ぼくは槍の穂先に疲れた身体を横たえました。山との会話に言葉は必要ありません。自分が生きている今、そこに溢れるありのままの感情を共有しようと、意識を山に向けるだけでいいのです。全身で感じる喜びが、ぼくを通して槍ヶ岳に伝わっていくのがわかります。槍ヶ岳は、風のざわめきや、太陽のひかりや、雨粒のつめたさや、雲のかたちで、ぼくの想いに応えてくれました。

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