シルクロード その2

新しい場所に出会うと、ぼくはまず散歩をします。山を、森を、海を、街を、自分の足で感じ、そこに漂う空気のリズムを自分と合わせたいからです。それは、 目の前の他人(ひと)に呼吸を重ねるのと似ています。相手の生きるリズムへと寄り添うことは、特有の営みをもち、常に変化を繰り返す場所や他人(ひと)を知る素晴らしい方法です。
たどり着いた西安の街をいつものように歩きました。西安は古い街です。その歴史は3100年を越え、数々の王朝の都として大きく栄え続けてきました。そんな場所の持つリズムは、あたり前だけど、とても複雑です。ゆったりしているようで激しく、淡白なようで濃密に刻まれます。古代日本の中心だった奈良の三輪山をはじめて訪れたときも似たような感覚を覚えたけれど、信じられないくらい長い時間によって紡がれた西安の空気は、三輪山とは違う奥深さがありました。
西安の中心部は四方をぐるりと城壁に囲まれています。明(みん)の時代に作られた壁は全長13kmあり、その上を自転車や電動カートなどで観光することができます。もちろん、歩くことも可能です。街並みを見下ろしながら、ぼくは、ゆっくりと壁の上を歩きました。歩きながら、頭に浮かんでくる過去の風景へと、そこに響くさまざまな音へと、丁寧に心を近づけました。なぜだか、とても懐かしい感じがしました。不思議だけど、この壁の上を歩いたことがあるという、根拠の無い確信を持ちました。
ぼくは生まれ変わりを信じています。ぼくではない、たくさんのボクが、過去にも、未来にも、ぼくのそれとはちょっと違う現在にだって、たくさん存在していると考えています。新しい場所、目の前の他人(ひと)のリズムへと寄り添うのは、ぼく以外の存在に、ぼくの忘れてしまったボクの面影を見つけたいからなのかもしれません。ほんの少しでも、愛しさの記憶を、取り戻したいと願っているからかもしれません。
城壁を歩きはじめてから3時間が経ちました。スタート地点である南門に戻ったとき、すでに太陽は西へと傾いていました。やわらかなオレンジ色に染まる西安の街は、これからあと、どのくらい続いていくのでしょう。またいつか、ぼくではないボクが、ここに立つことがあるだろうか。そのときも、この街の空気と、そして、そのときのボクの心が、穏やかであることを、ぼくは強く願いました。









