香港・マカオ

香港には欲望がありました。食欲、物欲、金欲、出世欲、ありとあらゆる人間の欲が形を成していました。欲のエネルギーは凄まじく、香港に足を踏み入れた人を限りなく昂揚させます。良いとか、悪いとか、そういうことではなくて、普段は心の奥深くに閉じ込めた欲求がむき出しにされ、自分と他人の目の前にさらされます。

それでも、 例えば、並べられた美食を片端から口に放り込み続けている間や、煌びやかなブランドショップで物色している間はいいのです。けれど、自分を客観視する静かな瞬間が訪れたとき、そこには背筋がゾッとするほどの恐怖が待っています。香港には欲望がありました。そして、それに負けないくらいの欲望が、ぼくにもありました。

ビクトリアピークの山頂へと続く道を歩きながら、自分の欲について考えました。ぼくは、普段、自然に囲まれた環境を愛し、なるべく物を持たない生活をしようと心がけています。足るを知ることで、必要の無いものには興味を持たない自分になったつもりでいました。

違いました。ぼくの中には驚くほど強大な欲が住んでいたのです。ここ何年か存在を否定し、対話しようともしなったけれど、確かに、欲はぼくの中で生き続けていました。「ごめん」と、ぼくは欲に詫びました。

ビクトリアピークからは数え切れないほどの高層マンションが見えました。世界一の高値をつけたマンションが、この中にはあるといいます。ぼくは久しぶりに欲望との対話をはじめました。「なあ、あのマンションで、暮らしてみたいかい?」

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