シルクロード その4

ある言葉を聞いたり、目にしたりしたときに、風景や音、香りや温度などが頭に浮かぶことがあります。例えば、「犬」という言葉から、ぼくはお義父さんの飼い犬のチコを思い浮かべるし、彼女が散歩にいきたいときに発する甘えた鳴き声を連想します。イメージはきっと人それぞれバラバラで、まったく同じものが浮かぶなんてことは、なかなかありえません。そんな、実にいい加減で曖昧なところが、言葉というシステムの愛すべき柔軟性だし、また、やっかいな問題点でもあります。

旅に出る前、シルクロードの主要都市として憶え知っていたウルムチやカシュガルという言葉は、ぼくにたくさんのイメージを想起させました。典型的と言えばあまりにも典型的な、砂漠、ラクダ、オアシス、バザールといったシルクロードの諸風景です。シルクロードの景色が、旅をこよなく愛するぼくの冒険心をくすぐったのは言うまでもありません。ドキドキと共に膨らんだ期待感は自分でも驚くほど大きなものでした。けれど、実際にたどり着いたウルムチは、カシュガルは、もはやシルクロード風味がほのかに漂うだけのモダンな大都市に変わっていました。

ウルムチやカシュガルに限らず、現在の中国は好景気に後押しされた建設ラッシュに沸いています。ここ数年で観光地として名の通った場所には真新しい施設が並び、入場料は一気に値上げされました。ちょっと前なら街で働く人々にとって1ヶ月の給料の半分以上したであろう金額を支払わなければならない場所でも、信じられないほど多くの人達でにぎわっています。

カシュガルにはつい最近まで人々が生活を営む古城と呼ばれる広い区域がありました。レンガ造りの家がひしめき合うように立ち並び、細い路地の片隅では子ども達が遊んだりしている、日本の下町にも通ずる美しい街並みです。今では取り壊しが進み、かろうじて残っている部分については、当然のごとく料金を支払わなくては入れません。

取り壊され続ける古城や、郊外で工事の進む高層マンションの建設現場には、いくつも看板がかけられていました。「生活を豊かにして、意識をつなげよう、1つになろう!」といったスローガンが、どの看板にも記されていました。そういえば、今の日本にも「1つ」とか「つながる」なんていう言葉が溢れています。1つになるって、どうなることなんだろう?

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