小笠原諸島

東京の南南東1000kmの太平洋上に小笠原諸島はあります。片道25時間の船旅でしか辿りつけない島々は独自の生態系を保ち続けていて、今年2011年の6月には世界自然遺産にも登録されました。

深く澄んだ藍色の海、そして、濃密な緑にあふれる山と森。島を取り巻く自然の彩りは純粋で密度が高いです。常日頃、余計な思考や半端な感情を抱えながら生きているぼくは、島へと訪れるたび、その汚れきった自分を浄化するのに骨を折ります。丸1日かけて頭と心をフラットにしたら、ようやく、島が伝えようとしている想いを受け止めるための準備が整います。

小笠原を訪れた10月下旬、大気の状態はかなり不安定でした。空の表情は刻一刻と変わり、太陽の光が力強く降り注いだかと思えば、一瞬にして荒れ狂うスコールが島を包みました。世界を旅するようになって、山に登るようになって、強く感じるのは、自然という大いなる営みへの畏怖です。眩暈がするほどの美しさを讃える想いが膨らめば膨らむほど、容赦の無い圧倒的な暴威には、讃嘆をしのぐ恐怖を覚えました。

ぼくら人間だって、本当は、自然の一部です。空や、海や、山や、森や、他の生物とのつながりをしっかりと保ち、大いなる営みによって生み出された奇跡の1つだという事実を忘れずにいられるなら、自然を愛しこそすれ、恐れを抱く必要などどこにもありません。けれど、ぼくはすぐにそのことを忘れてしまいます。自然から自分を切り離し、頭と心を「人間」という傲慢な特別意識で汚してしまうのです。

島は、繰り返し、繰り返し、伝えてきました。人間は特別ではない。空や、海や、山や、森や、他の生物と同じ、宇宙を動かす壮大なシステムの一部でしかない。ただ、だからこそ人間を含む森羅万象が特別であり奇跡なのだ、と。

島で過ごした3日間、ぼくがあらかじめ立てた予定は、移ろう天候とともにことごとく変更させられました。島には島の、地球には地球の、宇宙には宇宙の、ぼくには想像もつかない厳かな都合があります。こちらのエゴばかり押しつけるのではなく、彼らの呼吸を感じながら、一緒に楽しめることだけをやらせてもらえばいいのです。敬意と感謝を持って接するなら、いつか必ず、ぼくの望んだものを、彼らはもたらしてくれるのですから。

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