丹沢山

「幸せだなあ」。晴れ渡った青い空の下、大倉尾根を1人歩きながら、何度となくそうつぶやきました。心や身体から湧き出てくるように幸せは繰り返されていました。幸せとはなんでしょうか? 幸せとは、今の自分にとっての「幸せ」が、どんなものであるかを知っていることです。神さまから与えられた限りある大切な時間に、何をすれば笑顔が増え、誰と過ごせば優しい想いを感じられるか、はっきりと理解していることです。
今のぼくにとっての幸せは、エベレストを目指しながら重ねていく日々にあります。8000mを越える高所に耐えうる身体作りや、雪と氷に覆われた険しい道を進む登山技術の研鑽に勤しむこと。そして、その行程を傍らで支えてくれる大切な人達と分け合うこと。それだけが、ぼくに幸せを感じさせてくれます。
自分にとっての幸せを人生の真ん中に置く。その中心に軸を定め、生きるための姿勢を決める。自分の中心に向かって姿勢が保たれるなら、日常は美しさで満たされます。積み重ねていく時間に愛しさを見出せます。中心がぶれていないか? 姿勢が崩れていないか? ことあるごとに問いかけながら、自分だけの幸せを見つめなおします。
2時間ほど歩き塔ノ岳へとたどり着きます。迎えてくれたのは、富士山を臨む穏やかな景色と、楽しそうに写真を撮るハイカーの皆さんです。二言、三言、笑顔で言葉を交わします。いつにも増して綺麗な富士山を讃え、雲ひとつ無く広がる空を喜び合います。「幸せだなあ」。またそうつぶやいて、ぼくは丹沢山へと続くルートに足を踏み出します。この道の先には、キリマンジャロが、アコンカグアが、モンブランが、エベレストが待っていてくれます。