大雪山

山には感情がある。北海道の最高峰であり、また、大雪山の主峰として美しい姿でたたずむ旭岳を見た瞬間、そんな風に感じました。旭岳に登るのは今回が3回目です。1、2回は吹雪にあたってしまい、8合目付近までしか登ることを許されませんでした。あのときの旭岳はとてつもなく恐しく、ぼくの未熟さに対して、容赦なく鋭い風と硬い雪を叩きつけました。でも、今回は違います。「早く登ってきなさい」と微笑んでくれていました。

この日、笑っていたのは旭岳だけではありません。大雪山の核心部であるお鉢平を取り囲む山々すべてがやさしく輝いていました。大雪山はアイヌ語で「カムイ・ミンタラ」と呼ばれ、意味は「神々の遊ぶ庭」です。今までどうしてそう呼ばれているのかわからなかったけれど、この日、身体ぜんぶでその本質を強く実感しました。スケールの大きさ、風の心地よさ、光の輝き、そこには神さま達が遊び場所として選ぶにふさわしい美しさが溢れていました。

お鉢平を半周し、北鎮岳の山頂に登りました。旭岳に登らせてもらうだけでも十分だと考えていたぼくにとって、倍以上の距離を歩かせてもらえ、いくつもの山を縦走できることが幸せでした。山に登れるかどうかは、目の前に立ってみないとわかりません。どれほど注意深く準備しても、山が許してくれなければ一歩たりとも踏み入れることができません。そのとき自分ができることはいつも山が教えてくれます。迷わず、逆らわず、ただただその想いに寄り添えばいいのです。そうすれば、その瞬間の自分にとって最良の選択をすることができます。

お鉢平に別れを告げゆっくり下っていきます。途中、裾合い平という花畑を抜けました。数え切れないほどのチングルマやツガザクラ、イソツツジが笑っていました。「花、かわいいですね」。道端にしゃがんでカメラのファインダーを覗き込んでいる女性に、ぼくは声をかけました。すると女性は「本当にかわいいですね」と笑顔で返してくれました。自然と人と人。こんな風にいられたら、きっと、なんの問題もないのでしょう。またいつか大雪山を訪れるとき、山が、花達が、出会う人が、微笑みかけてくれる自分でありたいと、ぼくは心から願いました。

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