四川省 その1

普段は音沙汰が無いのに、突然メールをよこしては、不思議なメッセージを届けてくれる。そんな変わった友人がぼくにはいます。今回もそうでした。久しぶりで送られてきた彼女からのメールには「普賢菩薩が呼んでるよ」と書いてありました。

「普賢菩薩が呼んでいる」と、信頼する友がわざわざ伝えてくれたのだから、ここはもちろん、いかなければなりません。日本にも普賢菩薩に会えるお寺はたくさんあるけれど、どうせなら特別な機会を作りたいです。ネットで検索すると、ここしかないという場所がすぐに見つかりました。普賢菩薩の聖地として名高い中国四川省の霊峰、峨眉山です。

峨眉山にはゲストハウスで知り合ったイスラエル人と一緒に登りました。彼にとってはぼくが、ぼくにとっては彼が、日本とイスラエル、それぞれの国の人間と長時間コミュニケーションを取るはじめての機会でした。普賢菩薩の待つ頂への道すがら、8合目の雷洞坪からの標高差650m、約3時間を、ぼくらはたくさんの話をして歩きました。

「いつか遊びにおいでよ」。笑いながら彼がそう言いました。文化人類学や言語学が大好きなぼくにとって、さまざまな民族的・文化的背景を持った人々が暮らすイスラエルは、子どもの頃から惹かれ続けている土地です。普賢菩薩に会いに来て、ぼくは長年の憧れへとつながるきっかけを掴むことになりました。

考えてみると、心が躍るような状況へは、いつも、こんな感じでたどり着きます。友達からのメールとか、何気なくつけたテレビのCMとか、最近よく聴く音楽のタイトルとか、何度も目に入る看板とか、とにかく何でもいいのです。今の自分にとって、違和感があったり、引っかかったりするような何かを、ほんの少しわくわくしながら追いかけることで、思わぬ今が目の前に展開し始めます。幸せを作り出す秘訣とは、自分の意思や想像を超えて用意される状況を、精一杯、楽しむことなのでしょう。

標高3000mを越える峨眉山の頂上には、雪と氷のベールに包まれた金色の大きな普賢菩薩像が座っていました。「遅くなりました」。そう伝えると、それまで空を厚く覆っていた雲がゆっくりと割れて、太陽が顔を出しました。

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